天文対話 

2001年 しし座流星群観測記

2001年11月20日 

報告者 盛岡白百合学園教諭 安倍冨士男

はじめに

2001年11月18日から19日にかけて「しし座流星群」を日本各地で見ることができました。

盛岡白百合学園中学高等学校では、「高校生しし座流星群観測ネットワークプロジェクト」に参加すべく準備をしてきました。

教師も生徒も天体観測、まして流星観測なんて初めてだったのですが、運良く流星を多数確認することができました。

ここに2日間の報告を行います。

なお、上記プロジェクトについては、下記のアドレスを参照してください。

なお、本日(平成13年11月20日)の最新情報では、野辺山に行ったチームが10分間で1000個の流星雨状態だったこと、

ほかのチームも10分間に200個程度の流星雨を確認できたことなどが速報で報告されています。また天文学者アッシャー博士から

激励のメールも届いています。

高校生天体観測ネットワーク

http://www.astro-hs.net/jp/index.html

 

第1日目 11月18日 日曜日 

観測時間 : 午前2時から午前4時まで2時間

観測者 : 安倍他3名 合計4名

観測場所 : 盛岡白百合学園中学高等学校 グランド  (岩手県盛岡市山岸4丁目29−16) 東経39.4 緯度141.1

観測した流星合計数:13個(3人の平均値)

 

観測結果シート  平均流星数は観測者3名の平均値で合計ではない。           (高校生しし座流星観測ネットワークの報告書から一部抜粋)

時刻

観測時間(分)

観測人数

平均流星数

雲量(0-10)

最微光星(等)

観測方向

しし群数

備   考

2:00 - 2:10

10

3

0.3

6

4.4

*

*

2:10 - 2:20

10

3

1.0

4

4.4

*

*

2:20 - 2:30

10

3

2.0

4

4.4

*

*

2:30 - 2:40

10

3

2.0

3

4.4

*

*

2:40 - 2:50

10

3

0.0

5

4.4

*

*

2:50 - 3:00

10

3

2.0

6

4.4

*

*

3:00 - 3:10

10

3

1.0

8

4.4

*

*

3:10 - 3:20

10

3

1.0

4

4.4

*

*

3:20 - 3:30

10

3

2.0

4

4.4

*

*

3:30 - 3:40

10

3

2.0

4

4.4

*

*

3:40 - 3:50

10

3

0.6

4

4.4

*

*

3:50 - 3:00

10

3

0.3

4

4.4

*

*

 

観測記録の報告者:安倍

キャンプ用リクライニングチェアでシュラフにはいって観測。他にフォールディングテーブル、携帯コンロなどオートキャンプスタイルで完全防備。

食料もカップヌードル、おしるこ、お菓子など大量に購入して万端の準備で臨んだつもり。

係分担は、3人の女子生徒がリクライニングチェアで観測を担当。私が炊事係兼タイムキーパーで私だけ立って観測。

 

午前12時30分 

起床してお湯を沸かしてポットに入れて出発。(しかしポットを忘れる)

1時00分

              近くの公園に行って、目の訓練と雲量の確認。ちゃんと星が見えているので幸先よいスタート。

1時30分 

              各家庭に回って生徒を車に乗車させる。ちゃんとみんな裏切らないで起きて待機していた。

              途中、みんなで近所の展望台によってみたが、流星観測者はいなかった。

              学校前のローソンで食糧補給。ローソンの店長さんに「先生、こんばんは。今日はずいぶんと遅いですね。」といぶかられる。

              流星の観測ですと言ったら、「それはまた大変ですね。寒くないように」と激励される。

2時00分

              学校到着。設備を展開してすぐに観測を開始。

観測を開始してすぐに最初の流星を発見。歓声があがる。しかし見たのは1人で他の2人は非常に悔しがる。

 

観測風景(白百合学園内の白百合ホール前にて撮影)

 

2時10分

3人が同時に流星を確認。大歓声があがる。あまり大きな声を出さないように何度も指示を出す。

山の上のグランドとはいえ、学園内には修道院と寮があるため。

それにしても大変な感激の様子。暗くて見えなかったが、もしかしてうれし涙を流していたかも。

3時00分

最初のティータイム。ポットを忘れたため、コンロでお湯をわかしロイヤルミルクティーで乾杯。乾杯しつつも、目は天空に。

4時00分

予定の観測終了時間が来たので、初日はここまで。

雲もあまりなく(約4割の雲量)、流星数が少なくても見ることが出来ただけで感動と充実感あり。

また流れていない時でも星座を見ているだけで2時間はあっという間にすぎた。

もっと観測を続けたいという希望もあったが、保護者との帰宅時間が約束してあるため、

広げたキャンプ道具をすべて撤収し、車に乗り込んで帰宅。

             寒さは相当なもので最低気温がプラス2度くらいだった。シュラフとホッカイロを使っても手足が寒さでしびれた。

 

本日の反省:

あまり食料やキャンプ道具は持ち込まない方がよい。

普通のキャンプと違って殆どあかりのないところで観測するので、コンパクトに道具をまとめるべきだった。

ヒマに備えてラジオを持参したが、邪魔だった。どこかの放送局で流星の話題でもやっているかと思ったが、そういう局を探せなかった。

             バードウォッチング用のカウンターを持参したが、使用しなかった。(それほど流星が流れず)

 

第2日目 11月19日 月曜日 

観測時間 : 午前2時から午前5時30分まで3時間30分

観測者 : 安倍他1名 合計2名

観測場所 : 盛岡白百合学園中学高等学校 グランド (岩手県盛岡市山岸4丁目29−16 東経39.4 緯度141.1)

観測した流星合計数 :665個(2人の平均値)

 

時 刻

観測時間(分)

観測人数

平均流星数

雲量(0-10)

最微光星(等)

観測方向

しし群数

備   考

2:00 - 2:10

10

2

0

10

*

西

*

雲が流星のため時々発光

2:10 - 2:20

10

2

0

10

*

西

*

雲が流星のため時々発光

2:20 - 2:30

10

2

0

10

*

西

*

雲が流星のため時々発光

2:30 - 2:40

10

2

0

10

*

西

*

雲が流星のため時々発光

2:40 - 2:50

10

2

0

10

*

西

*

雲が流星のため時々発光

2:50 - 2:00

10

2

0

10

*

西

*

雲が流星のため時々発光

3:00 - 3:10

10

2

0

10

*

西

*

雲が流星のため時々発光

3:10 - 3:20

10

2

7

10

*

西

*

雲のわずかな隙間から観測

3:20 - 3:30

10

2

9

9

4.4

西

*

雲のわずかな隙間から観測

3:30 - 3:40

10

2

47

9

4.4

西

*

西の地平に雲の隙間出現

3:40 - 3:50

10

2

62

8

4.4

*

南の空に雲間がひらけてきた

3:50 - 3:00

10

2

83

7

4.4

*

出現のピーク

4:00 - 4:10

10

2

58

7

4.4

*

*

4:10 - 4:20

10

2

61

7

4.4

*

*

4:20 - 4:30

10

2

60

7

4.4

*

*

4:30 - 4:40

10

2

61

7

4.4

*

*

4:40 - 4:50

10

2

52

6

4.4

*

*

4:50 - 4:00

10

2

53

5

4.4

*

*

5:00 - 5:10

10

2

50

2

4.4

*

*

5:10 - 5:20

10

2

32

4

4.4

*

東の空が明るくなり始める

5:20 - 5:30

10

2

30

1

4.4

*

天球の半分が夜明けのため明るい

5:30 - 5:40

10

*

*

*

*

*

*

*

5:40 - 5:50

10

*

*

*

*

*

*

*

5:50 - 5:00

10

*

*

*

*

*

*

*

 

報告者: 安倍(盛岡白百合学園教諭)

「反省するだけなら、猿でもできる」と自分を戒めつつ、今日は昨日の反省を活かして、食料、飲料などすべて最小最低コンパクトにまとめた。

それで2時から6時まで4時間通して観測できるようにした。

 

2時00分

観測を始めたが、全天が完全に低い雲に覆われており(雲量10)、非常に落胆。前夜午後9時頃は雲量5だったので、

「これは流星雨が見られるかも」と期待して出かけてきたのだった。「今日はダメかな」と思いながらも、

テントマットの上のシュラフに潜りこんで観測開始。雲は低くたれこめ、風はなく初日よりかなり暖かい。

だまって雲だけ眺めていると眠くなってくる。

              ただ、雲が時々発光しており、最初は音のない雷だと思っていた。(あとで、雲の発光は大きな流星の発光によるものと判明)

 

3時10分

雲に少しだけ空いた小さな穴のような雲間をじっとみていたら、オリオン座のリゲルが見えた。すこしほっとする。

しばらくすると本日最初の流星がその小さな雲間に一瞬流れ、2日目最初の1個となる。最初の1個にとても感動し、

またこのあと少しでも雲間があけば流星雨になるかもという非常な期待を抱かせた。

 

その後、少しづつ雲が拡大していき、流星が次々と流れ始める。

 

3時50分

雲量が7割にも達しているにもかかわらず、流星のピークに入ろうとしていた。

この頃は10分間に83個ほど(1分間に8個程度)確認できた。

天空高く流れる星あり、また地平線に斜めに突き刺さるように落ちてくるものあり、しし座を輻射点として様々に流れていた。

しかし、どちらかというとオリオン座の足下や両脇のあたりが一番多かった。方角としては西南西の方角が一番多かった。

ちらっと北の方をみると、やはり北の空にも星が落ちていた。

            

流れ方は、1個単位が9割ほどで他には2つ同時が0.5割。3つ連続(あるいは同時)というのもあった。

大きさは小さい物もあったが、盛岡繁華街の光害のためか、明るいはっきりしたものが9割ほどを占めた。

残りの1割(60個程度)は非常に大きく、1秒間くらい光の筋を残すものがあった。

また光跡に煙のようなものが見えたものもあった。(目の残像かも知れない)

 

雲の間が開けてくると、つまり宇宙が見えてくると、急に冷え込んできた。

もうビリビリという感じで記録のために手袋をはずすとすぐに体温が奪われて冷たくなってひえきってしまう程だった。

            

(とりとめのない話1)

3つ4つと連続で大きな流星が落ちて来たときは、思わず「やばい!」とつぶやいてしまった。

H.G.ウェルズの小説「宇宙戦争」を思い出したからだ。

映画では、まさにこのような光景が描かれていて、落ちてくるその火の玉には人間を食べる殺戮機械の火星人が乗っているのだった。

(この小説は当時のイギリスでラジオ放送されたのだが、あまりのリアリティーさとロンドン破壊の恐怖にロンドン市民がパニックに陥ったとのことである。)

 

(とりとめのない話2)

 昔の人は流星を見て、そのあまりに天変地異に頭を手で覆って逃げたらしい。わかるなあ。その気持ち。学校の近くの山に大きな流星が落ちると

一瞬火事になるんじゃないかと思ったほどだった。(わたしは学校の防災組織の避難誘導班班長で、つい2日前の全校避難訓練の責任者だった。)

 

(とりとめのない話3)

この星座っていうのは、今から5000年前のメソポタミア地方(現在のイラク・シリア)のひつじかい達が、夜空を見上げて

星と星のつながりを動物や神様にたとえたというのが始まりらしいが(学研の図鑑「宇宙」より)、砂漠地方は雲が少ないので、

また光害がないので、きっとよく見えたに違いない。

 そういえば、イエス・キリストの生まれも星が流れて東方の三博士が予言した幼稚園の劇でやっていたし、いつか読んだ中国の歴史にも孔子が死ぬことを

彗星か何かの出現で予言したらしい。これは2500年前のこと。

日本でも最近見つかったキトラ古墳の内部に中国の天空図が書かれていたというから、今よりももっと星の運行と生成消滅が人間の運命を

左右していたんだろうな。

清少納言も枕草子の中で「ほしはすばる」って言っているらしい(かこさとし ほしのほん ふゆのほし 偕成社)から、プレアデス星団がことのほか、

お気に入りの天文ファンだったんだなあ。「おほほ。」なんて十二単の袖で口元を隠しながら、「ベテルギウスなんて、ダメよ。やっぱり、ほしはす・ば・る」

なんて言ってたのかなあ。

 

              (とりとめのない話4)

              わが郷土の先輩、宮沢賢治センセも星が大好きだった。星めぐりの歌や銀河鉄道の夜を書いている。流星は見たんだろうか。

              気になるなあ。今度調べてみようっと。

賢治先生ならこちらです。→ http://morioka-shirayuri.morioka.iwate.jp/kenji/kenji.html

 

              (とりとめのない話5)

              どうしても光年という単位が気になる。今見えてるオリオン大星雲から地球までの距離が1500光年だという。

だったら、1500年前に光ったひかりが今地球に届いていることになる。

日本ではそのころ中国にせっせと使いを送ったりしているから、船の上で沢山のたちはきっと何もすることがなかったので、

              満天の星空を見ていたんだろう。きっと難破して海のもくずと消えた人たちもみたはず。

その頃の発光した光が今、届いているんだね。不思議だね〜。だって光は1秒間に地球を7周半もするくらい早い。

(じゃあ、今みているオリオン大星雲で発した光が地球に届くのは、西暦3500年あたりってこと? ひぇー。)

 

5時10分

              だんだん東に空が紫色に変化してきて夜明けが近い。

              寒さも身にしみてくる。特に手と足が冷えてしびれている。

              (ホカロンがあったのだが、観測に夢中になってどっかにやってしまった。)

 

              (とりとめのない話6)

              夜明け前の流星を見ているとだんだんに愛着がわいてきた。

ちょうど数年前にシューメーカー・レヴィー第9彗星が木星に衝突したときをことを思い出した。

              第一発見者であり命名者の老婦人は、衝突の瞬間に「Oh, No」と言って顔を手で覆って泣いていた。

              きっと我が子を失うような悲しみを感じたに違いない。

              わたしも流星がかわいそうになってきた。

「たった0.2gのチリだか岩石だか知らないが、おまえも地球にぶつからなければ燃え尽きることもなかったろうに」

 

5時30分

              観測開始から3時間30分が経過していた。もう完全に東の空は白々としてきて、天空の半分が朝で半分が夜の状態。

              それでも、時折流星が流れていたが、もう寒さと集中力の限界に達していたので観測終了宣言をする。

              立ち上がったとたんにフラフラしてまっすぐたてなかった。

              撤収作業をしながらもなんとなく空を見上げると、まだ時折、流星が落ちてきている。 See You Again Next Year!

 

              このあと、吉野屋に直行。あったかい牛丼とみそ汁で暖まる。

              吉野屋では異様な出で立ち(頭には毛糸の帽子、首にはマフラー、体は防寒具でぐるぐる巻き、足は長靴)に、

              ほかのお客さんからジロジロと見られる。それでも寒くて脱ぐ気にはなれなかったので、そのままで食す。

              身も心も達成感で充実。

まっすぐ、帰宅。

 

明け方の最低気温 プラス1度。

 

今日の工夫と反省

カウンターを用意した。(実際には使わなかった。ゼロに戻す余裕がなかったから)

人数が少ないので、観測に必要な記録用紙はバインダーに挟み、寝ても書けるようにした。

また、お茶やビスケットはすべて枕元において、寝ていても給水し食料補給できるようにした。

真っ暗な講演会でメモする時に使う発光ペン(緑色光)は最初とても便利だったが、寝て書いているとすぐに使えなくなった。

(やっぱり、NASDA宇宙開発事業団の売店で売っていた逆さまでも書ける宇宙ペンにすべきだった。結局、鉛筆を使用)

寝袋をすっぽり覆うシュラフカバーを用意すべきだった。夜露で濡れてしまった。

寝袋は封筒型ではなく、マミー型の厳冬期用を用意すべきだった。スポーツショップで買った夏用の安物だったため、凍えた。

やはり観測マニュアル通り、ライトにはすべて赤いセロファンをかぶせて正解だった。とても目に優しい。

(セロファンは50センチ四方で30円だった。)

鉛筆型のマグライトはダメだった。回してのON・OFFだと手袋をかけた手では面倒だった。

ヘッドランプはプッシュボタンが低温のためプラスチックが硬化してきつくなってしまい、使い物にならなかった。

(キャンプ用品で有名な米国C社のだった。)

 

利用したもの

 高校生しし座観測ネットワークの「観測マニュアル」。大変助かりました。事務局のみなさん、ありがとうございました。

 

あればよかったもの

宇宙ペン

キッチンタイマー (10分間計として使用したい)

しゃべる時計

(タイムキーパーがいないので、いちいち時計をみるのは本当に面倒だった。たしか押すと時間をしゃべる時計が売っていたはず)

湯たんぽ(ホカロンではパワー不足。少なくても盛岡は)

シュラフカバー

記録用デジタルビデオとエンハンサー(やはり映像で取って残したかった。来年はぜひ持っていこう)

観測仲間

  来年は少し観測計画を綿密にたてて盛岡周辺の高校生と合同観測会をやれたらいいなと思った。

  交通はどうするの? わたし大型自動車免許あり。学校に幼稚園バスあり。登山部で運転経験あり。(笑)

 

なくてよかったもの

ヒト

周りに沢山の観測者がいれば、騒音でいろんな想像力が出てこなかったかも。

実際、同時刻の市内某所は沢山の観測者とその出入りの車でにぎわっていたとの情報あり。

やっぱり、静寂がいいね。天体と対話できる。

その点、山の上の白百合学園を選んだのは、正解だった。郊外にありながら、静かで暗い。多少歓声をあげても迷惑にならない。

天文ガイドブック

事前によく読んでおかないと、暗いところではまったく役にたたない。特に星座の見方。

大量の食糧

   初日にちょと食べ過ぎた。慣れない夜間の大食は胃に負担がかかる。宴会じゃないんだからと後で気がつく。

パソコン

   モバイルパソコンを持っていこうと思ったがやめた。電源も車からとれたので、メールチェックしたりウェッブで情報収集しようと思ったが、

   そんなことをしていたんでは、目の前の流星を見逃しそうと思った。正解だった。何もしなくてもいるだけで楽しい。

 

総括

 天体観測初心者の教師と生徒が行った流星観測にしては、大成功だった。雲が多かったため、一時はダメかと思ってあきらめかけていたが、

あきらめずに最後まで観測した結果、10分間あたり80個の流星を観測することができたのでよかった。

なにより生徒が大変感激して満足していたことがうれしい。きっと大人になっても時々は星空を見上げてくれることだろう。

 来年は、同じ場所かやるかも知れないし、あるいは日本一の星空の村として有名な岩手県衣川村か賢治の愛した種山が原で観測してみたい。

 

以上