どうやって何もないところから、森はできたのでしょうか? 

遷移(せんい)と極相(きょくそう)という考え方を中心に説明します。

皆さんは、野山で樹木を見たりしたことがありますか。

私たちはなにげなく、野山の木を眺めており、「木はいいなあ。どっしりしていて。落ち着くよなあ」と思ったりします。
ところが、実はその樹木たちはお互いにはげしく競争しながら毎日を生きているというのです
ほんとうでしょうか???

じっとしておとなしく何年も何十年もそこにじっとして立っているように見えても実は他の樹木との激しい生存競争を日夜繰り広げているというのです。
では、森がどのように作られていくのか、そのドラマチックなメカニズムをたどってみましょう。

段階 説  明
山がくずれたり、火山が爆発して何も植物が生えていない土地ができるとします
こうしたはだか地に最初に生えてくるのは、コケ類です 
ハナゴケ・スギコケ・スナゴケなどが岩石(例えば溶岩など)に侵入してきますね。その場合、たとえ太陽に熱せられて乾燥しても(日中に表面温度が57.8度にもなるという。その場合、手でもむと粉々になるほど乾燥している)、これが雨にあたり水分が補給されると、必ず原糸体を伸ばすほど生命力が強いと言われています。(生態遷移I  p5)
コケに続いて、1年で枯れてしまう草が生えます。(こういう草を1年草と言います)

次に冬の間も根は生きていて何年も生きる草が生えてきます。(こういう草を多年草と言います) 
例えば、ススキやヨモギです
多年草の草が茂るようになると、コケや1年草の草は生存競争に敗れて絶えてしまいます。
こうして多年草が生えて数年たつと、土地がだんだんよくなってきます。
なぜなら、根が土をやわらかくしたり、枯れ草が肥料になっていくからです。
やがて土地が少しづつよくなってくると日なたでよく成長する小高木が進出してきます      
例えば野いちごのようなイバラ類やヌルデなどの小高木です 
何年かたつと、落ち葉もたまり土もかなり深いところまで柔らかくなるので日なたを好み、乾燥にも強い高木が生えてきます。 
暖温帯ではクロマツ林が形成される
日なたを好む木を陽樹と言います。 アカマツやコナラなどのような木です。
このような日なたを好む高木が生長して大きくなると、それまで生えていた草や日なたを好む高木の若木はだんだん衰えてきます
そのような環境で育つことができるのは、日陰でも生きていける高木の若木だけです。         
日陰でも生きていける木を陰樹と言います。
そしてあとつぎがいない陽樹の高木はだんだんすくなくなり、日陰でも育つ高木が森林を支配します
10 そのような環境で育つことができるのは、日陰でも生きていける高木の若木だけです。         
日陰でも生きていける木を陰樹と言います。
そしてあとつぎがいない陽樹の高木はだんだんすくなくなり、日陰でも育つ高木が森林を支配します
11 このように日陰でも育つ木に支配された森林には、もう他の木が入り込む余地はすくないのです。          
陰樹が生存競争に勝った訳です
この時点から陰樹の老木は同じ種の陰樹の若木と交代していくだけで、何世代もこれを繰り替えることになります。
このように植物の種類があまり変わらない安定した状態を極相と言います。

木にはそれぞれ生きていける気候の範囲が決まっているので、どんな木が支配する極相になるかは、気候によって異なります。
逆に言うと、気候によってどんな極相になるかがほぼ見当がつくことになります。
(しかし、風当たり、土の様子などによって極相にならない場所もあります)

暖温帯ではタブノキ林など、冷温帯ではブナ林など、亜寒帯ではトドマツ林などが1つの極相を形成します。
この極相によって表れる木の種類は、日本の場合、年平均気温と関係があります
それで4つの森林帯に分けることができるのです。

それでは、極相になるにはどのくらい時間がかかるのでしょうか?
これに対して記述している本はなかなか見あたらなかったのですが、1つだけ参考までにあげておきましょう。
「図解雑学 生態系 ナツメ社」では「少なくとも500年以上かかるようです。」と書いています。
また別の本では、たしか300年くらいと書いてあった気がします。(どの本か忘れてしまいました。)

追記
なお、文中の段階というのは私が便宜的につけただけで、学問的にそうなっているとうのではありません。誤解のないように。
遷移のことを英語でSuccession(サクセッション)、極相のことをClimax(クライマックス)と言います。
植物学者の誰が最初にサクセッションということはわからないそうですが、少なくとも18世紀には使われていたようです。(生態遷移I 11P)


この遷移と極相という考え方は、とても難しい専門書にしか説明がありませんでした。
当時、私が捜してたどり着いたのは、生態遷移Iという古い生態学の学術専門書でした。
しかし、2004年になって、高校生物の教科書や高校生物の図解資料集にも掲載されるようになってきました。
ぜひ、高校生に兄弟がいる方は、そちらをご覧下さい。イラスト入りで丁寧に説明があります。
でも、わたしの説明も、元が学術専門書の割にはかなり丁寧だ自負しています。(笑)
中学生の皆さんや小学校高学年の皆さんにもわかるようにできるだけ丁寧に書いたつもりですので。


 いろんな場所の遷移

上では、乾燥した場所での森林ができるまでをステップごとに見ましたが、実は遷移がどんな条件(乾いた場所なのか水分の多い場所なのか等)によって
いくつかのパターンに分けらるから、遷移の姿が1つではないというのです。
 「生態遷移I 」(共立出版 田川日出夫)には、水の中や塩田跡などにおける特殊な遷移も詳細に記述されています。
その中から水の中ではどのように遷移が進行していくかを簡単に紹介することにします。(この本は専門用語が沢山出てくるのですが、わかりやすく言い直してみます。)
 それにしても、ちょとした水たまりや沼、池などでも植物の激しい戦いが繰り広げられていると思うと植物も生存競争にさらされていて大変だなと思います。

遷移系列   状  況
乾性遷移系列
xerosere
上で紹介した遷移にあたりますので、省略します
湿性遷移系列
hydrosere
湖や川の中州などの場所では、多量の水があるか、流れがあるかによって遷移の最初が異なります。

あまり流れのない池などでは次のステップを踏むようです。

1 水面下の泥にヤナギモなどのまったく水面に顔を出さない沈水植物(ちんすいしょくぶつ)が発生します。

2 ヒツジグサやヒルムシロなどの、根は水面下の泥にあるが葉を水面に出す浮葉植物(ふようしょくぶつ)が発生します。
  すると、水面に浮葉植物の葉が広がり水面下の植物は光が不足して消失していきます。

3 こうした植物の死んだ残骸が積もりつもっていきます。そしてこの残骸が腐植質を形成します。
  底が浅くなってきます。

4 次にフトガイ・ガマ・コウホネなどの挺水植物(ていすいしょくぶつ。抽水植物とも言うらしい)が現れてきます。
  やがて、時間の経過とともに、こうした挺水植物が多数を占める水面下が草原になります。

5 次に背丈の高いヨシが侵入してきます。
  ヨシが何世代も植え代わり、水面下の草原が水位より高くなり陸地化します。

6 陸地化すると、ヨシよりも背が低いスゲを中心とした群落になります。
  しばらくすると地面が地下の水位よりかなり高くなります。

7 土の中の水分条件が中湿性になると、ヌマトラノオ・ミツガシワなどの広葉草本の群落
  木本としてハンノキ類が出現する低木林になります。

8 これから以降は、乾性遷移系列と同じステップを踏み、やがて安定した森林へ発達する。

スゴイですね。水の中も徐々に植物によって陸地化されて、やがては森林へと発達していくのですね。
他に
 気温の低い高層湿原の遷移、
 河川など流れのある環境の遷移、
 塩分の強い土地の遷移、
 河岸砂丘など砂だらけの場所の遷移、
 熱帯雨林の遷移
などが紹介されているので、興味を持った人はぜひ、専門書を見て下さい。

こういう知識と技術が、砂漠化する土地の緑化などに役立てられているのでしょうね。きっと。

また、次のような言葉も覚えておくと身近な森林の様子を理解するのに便利かも知れませんね。
 一次遷移 溶岩のようにまったく植物の種など存在しないところから始まる遷移(上で解説した遷移)
 二次遷移 放置された田畑のように、植物の存在があり、生態系が乱されたところから始まる遷移
 途中相   人為的に遷移の進行がストップした状態 野焼き等によってススキ草原やシバ草原となっている場所など
 退行遷移 遷移が逆に進行して最終的に裸地になること 例えば放牧の家畜が多すぎると草丈の高い植物から低い植物へ、さらにはだか地へとなる

 極相を手がかりに身近な自然を考えてみよう

前掲の生態遷移Iには、極相についても学説の紹介があります。がそれは専門書にゆずっておいて(興味のある人はどうぞ)。
ここでは、極相をもうちょっと、こまかに眺めておくことにします。

先ほど、遷移の代表として、乾性遷移を見ました。そこでは、「クロマツ林は途中の形態であり、やがて陰樹の支配する森へ遷移が進んでいく」と述べられていましたね。

 では、質問です。「日本三景の松島はクロマツ林ですが、やがてはタブノキ林とかブナ林になるのでしょうか。
「そして松島という名前はタブノキ島とかひょっこりひょうたん島という名前になってしまうでしょうか。」
という素朴な疑問がわき起こります。(質問の後半は冗談ですが。)


冗談から、ここでちょっとだけ脱線します。
現実にそういうことはあり得ますね
宮城県の松島と言えば、日本の森林帯で言えば一応、冷温帯に分類されていているので、そのままあと300年もすると冷温帯の極相であるブナ林になるかも知れませんね。
しかし実際には住んでみての実感ですが、松島は冷温帯というよりも暖温帯に属するような気がします。
太平洋沿岸は、海流の影響で暖かいのです。実際、タブノキの北限は松島よりもずっと北の岩手県大船渡市です。
ここに北限のタブノキというのがあります。従ってあと300年もすればタブノキ林になるのでしょうか。

 それから平成15年春から「ひょっこりひょうたん島」がNHKで再放送が始まりますね。
原作は井上ひさしさんです。そしてこのひょっこりひょうたん島のモデルが岩手県大槌町の大槌湾に浮かぶ島だと言われています。
井上さんは山形生まれですが、東北各地から作品のモチーフを得て小説や戯曲にしています。
「汚点(しみ)」は岩手県一関、「青葉繁れる」は宮城県仙台市、「吉里吉里人」は岩手県大槌町吉里吉里(実際の地名です)、新釈遠野物語はそのまま岩手県遠野市です。
他に「泣き虫なまいき石川啄木」(岩手県玉山村)、イーハトーボの劇列車は宮沢賢治(岩手県花巻市)などなどです。話が文学の方へ流れそうなのでやめます。
脱線終了です


先ほどの質問に対する答えを見る前に、生態遷移Iの最終章「遷移と自然保護」には次のような重大な大原則が書かれています。

これまで述べてきたように、植物群落は安定した極相の状態にあるか、または、遷移の途中相にあるかのどちらかである。
そしてこれらの植物群落が日本の景観を決めているのであり、日本の各地方を代表する景観は、主として極相の森林である

(生態遷移85p)

なるほど!と合点しますね。

青森と秋田にまたがる白神山地のブナ林・屋久島の屋久スギなどなどを思い出しますね。
完全な安定した極相の段階にある訳です。

それでは
、質問の答えは以下のようになります。長いですが、やはり生態遷移から引用します。

「極相に達する前になんらかの遷移の進行を妨げる力がはたらけば、途中で遷移の進行が停滞してしまう。
この停滞がかなり長く続く時には、
この進行を停止した植物群落を準安定相(subclimax)という。
日本の海浜に見られる松林は、このタイプの森林である。
海岸のクロマツ林は、砂の移動、砂中の水分収支の悪さ、塩風(原文のまま)、
および人間による落葉の収奪などの妨害のため、遷移の進行が極度に遅れている。」

(生態遷移I p10)

ということで、答えは「松島は様々な要因によって現在は準安定期にあって、今後しばらくは変化しないだろう」ですね。

でも、やはり松島といえども、生態遷移の原則からは逃れられないのですね。
遷移の進行が非常にゆっくりと進行して、最終的には極相に至る途中にあるんですね。
ただ様々な妨害原因が多いためここ数百年は松林の状態なんですね。

(江戸の松尾芭蕉の時代からすでに松林だったし、ずっとそれ以前の平安時代あたりも松林だったようです。
平安時代の頃の頼賢(らいけん)という偉いお坊さんの事などからそれがわかります。)
松島についての詳しい解説は、私の「俳聖松尾芭蕉 奥の細道 共同学習」をご覧下さい。

本当に、この遷移という考え方は面白いですね。いろんな植物の状態を説明するのに非常に役に立ちますし、なにより
表面上はどっしりして何も変化がないように見える植物たちが、まるで「大騒ぎして生き残り競争を繰り広げていること」に、
深い驚き念を禁じ得ません。

わたしも小学生の頃は、よく奥松島(宮城県鳴瀬町)の松林内で、松葉拾いをしてたものです。家の燃料にするためです。
そのため、小学生の頃の松林はいつもほうきで掃いたようにきれいで、ゴミひとつ落ちていませんでした。
それから30年以上も経過して、たまに実家に帰省したおりに松林を眺めてみると、あまり松の木は大きくなっていませんでした。
ほんのちょっぴりしか大きくなっていませんでした。植物が大きくなるというのは、大変なことなんですね。

ちなみにシベリアの亜寒帯林のカラマツ林は幹が10センチ大きくなるのに200年かかるそうです。木が遠くなりますね。
屋久島の屋久杉は樹齢が1000年以上だそうです。

さて、その奥松島の広大な松林も最近は誰も松葉を集めなくなったので、林床(りんしょう=林の地表面)に松葉が堆積してジメジメして、いろんな植物の芽が出てきています。
遷移の法則によって、このまま行けばやがては落葉広葉樹にとって代わられるかも知れませんね。


このページの解説は、以下の本を参考にしながら筆者自身が書きました。

私たちの森林 社団法人 日本林業技術協会 都市文化社 昭和60年
森林の環境 100不思議 日本林業技術協会編 東京書籍 1999年発行
生態学講座第6巻 生態遷移I  田川日出夫 共立出版 1973年
森のおいたち 谷本丈夫 自然の中の人間シリーズ2 森と人間編 PHP研究所  1984年
図解雑学 生態系 児玉浩憲 ナツメ社 2000年 (この本は非常にわかりやすいです。)