「インターネット時代の消費者像を探る」研究論文
家庭におけるインターネットを利用した消費行動の変化について

執筆者: 安倍冨士男・安倍恭子

  1. はじめに(研究の目的)
  2. 方法(研究の方法)
  3. インターネットが導入以前の消費行動について
  4. インターネット時代の消費者はどのように行動するのか(予測)
  5. 準備(インターネット敷設とパソコンの初歩学習について)
  6. 消費行動を通して感じたこと(主婦の立場からの感想)
  7. まとめ

1 はじめに(研究の目的)

現在、世間では「IT革命」と言われているが、行政や企業といった効率を重視する組織のレベルではなく、今後インターネットの主役となるであろう家庭のレベルではその恩恵が実際にはどのようになるのかまだ確かな姿は見えない。

しかし今年末(i.e.2000年末)になって一般家庭でも低価格で常時接続の環境が実現されてきており、家庭でのインターネット普及が爆発的に広まりそうな気配がある。そこで本論では、インターネットとは無関係の生活を行っている家庭の主婦が、インターネット常時接続環境を経験することにより、従来の消費生活と比較することによって以下の点を考察するものである。

  1. インターネット上の買い物は家庭の主婦にとって魅力的か。魅力があるとすればそれはどんな点か。また魅力的でないとすれば、それは何故なのか。
  2. インターネット上で買い物をするには、そこに至るまで、実に様々なコンピュータ上の「障害」をクリアしなければならない。例えば、インターネット回線の契約、無線LAN環境の構築、パソコンの使い方、ブラウザの使い方、インターネットの基本理解など。こうした障害を越えて、インターネットの買い物をする価値があるのかどうか、また何が一番の障害になっているのか、実際の体験を通して検証を行う。
  3. インターネット利用において考察されることが多かった人間関係は、大きな組織における人間関係(すなわち会社においては上司と部下、学校においては教師と生徒、取引においては発注者と受注者といった関係)であった。しかし今回は、特に家庭での人間関係に着目し、インターネットにおける消費行動を通じて親子でどのような行動が見られるか考察する。

以上、3つの点について実証実験・考察を行うのが本論の主題である。

2 方法(研究の方法)

30代専業主婦に調査の協力を依頼する。協力者の家庭にCATVによるインターネット常時接続(128k/bps)を新たに設置する。いつでも気軽に使えるようにするために、ノートパソコンを無線LANに接続する。ホームページが実際に見られるようになるまで、インターネット経験者である筆者がサポートし、インターネット上の買い物は、家庭の主婦である協力者が行う。今回は、インターネットの消費行動に入る前に、できるだけ敷居を低くするために、4つの工夫を行った。

1つは、常時接続を導入したことである。ダイアルアップ型では、どうしてもNTTの回線料が消費行動に入る前の心理的なブレーキになる考えたからである。また、テレホーダイなどの深夜型サービスはいかに低料金でも消費生活者としての主婦には向かない。やはり使わなければ損であるという経済心理、逆にインターネットを利用すればするほどコストを回収できるという環境を家庭に用意しなければ、初心者がいろいろな障害を越えた先の消費行動に結びつくとは考えにくい。

2つ目は、デスクトップ型パソコンではなく、ノート型パソコンを導入した点にある。デスクトップ型はだいたい書斎かリビングに置かれるが、気軽にインターネットを使って消費行動をするには、「パソコンまで行かなければならない」「わざわざ電源を入れて待たなければならない」という行動面でのブレーキになると考えたからである。ノート型パソコンであれば、主婦が一番多く時間を過ごすリビングや食卓、あるいは台所でも情報検索が行える。またスリープやハイバネーションなどのレジューム機能を利用することで、ソフトが起動するまで待つことなくネットワークを利用できる。

3つ目は、無線LAN を導入したことである。ノートパソコンと無線LAN を組み合わせることで、2つの制約から解放される。1 つは企業のようにフリーアクセスな床を持たない家庭ではネットワークの配線を引き回すことは室内の美観を損ねる。また子供のいる家庭ではモールなどで固定していない配線は引っかかるなどの家庭内事故につながる原因となりネットワーク利用の心理的障害となる。無線を利用することで、こうした制約を免れることが可能となる。2つ目は、インターネット使用者が室内を自由に移動できることにある。企業や学校ではネットワークを使っての作業が業務であるから、他からのノイズに左右されることなく作業が最優先されるが、家庭ではそうは行かない。不意の来客があったり、子供が邪魔に入ることも十分にある。こうした家庭生活を犠牲にしない環境をつくることは、初心者がインターネットでの消費生活という新しいライフスタイルに移行してもらうためには、小さいといえ十分に考慮しなければいけない点であるように思う。

4つ目は、いつもパソコンやインターネットについて教えてくれる人が、そばにいることは初心者にとってはとても大切なことである。ほとんどの場合、初心者は品物が対面販売や通販より特段に安いとか、インターネットでしか入手できなものがあれば別であるが、実際の消費行動に入る前に、パソコンの設定やインターネットの設定などで挫折してしまうことが多いと考えられる。もちろん、パソコンやインターネットに詳しい人がどこの家庭にもいるとは限らないので、書籍や知人に聞くなどの別な方法を取るのがむしろ一般的であるのだが。

以上、2000 年11月時点の地方都市に住む一般的な家庭として、予想される障害とそれをさけるべき手段をいろいろと考えて、できるだけ「敷居の低い」環境を構築した。これにさらに加えることがあるとすれば、初心者の主婦を集めた「ショッピング講習会」、近所の友人達と一緒に買い物を楽しめる「ショッピング会」などがあれば、孤立という不安な心理に陥ることなく、集団による安心感、買い物について情報が交換できる楽しさ、などを付加することができるように思う。

3 インターネットが導入以前の消費行動について

インターネットが導入される前の、協力者の消費行動を大まかに述べる。家族構成は、夫婦(30代後半)と子供4人。中学1年生(女)、小学5年生(男)、小学3年生(女)、幼稚園(5歳男)である。

普段の消費生活は、食料品などの日用品は近所の大型スーパーで行う。またその他の電化製品や本などは半径10キロ以内の郊外型専門店で行う。ここ数年、通販生活を行っており、10種類程度の通販カタログがあり、実際には、月額あたり消費金額の約10%を通販、生協共同購入などで購入する傾向にある。従ってある程度は対面販売以外の方法には慣れている。また特筆すべき点としては、海外通販カタログを購入し、ファックスを利用して直接海外から物品を購入した経験がある。この時は、主に家具やインテリア調度品などを購入している。

普段からの消費心理としては、あまり無駄なものには出費せずできるだけ節約し、安くても悪いものは買わないように心がけている様子である。リーズナブル(値段相応)であれば、少々高くても購入している。

4 インターネット時代の消費者はどのように行動するのか(予測)

事前に、表1のようにインターネット初心者の消費行動に行き着くまでの段階を予測してみた。

表1 インターネット初心者の出会う局面

局面 段階 内容 対処法など
局面1 選定で迷う段階 パソコン・プロバイダ・ネットワーク機器などの選定で迷う 経験者のアドバイスで切り抜ける
局面2 設定で迷う段階 TCP/IP の設定が一番の難関であろう
メールの設定も初心者には難しい
同上
局面3 インターフェースに慣れる段階 とりわけキーボード操作が難関である
日本語入力が問題である
使いながら徐々に覚えていく
局面4 ブラウザに慣れる 分類されていない雑多な情報の把握に戸惑う 書籍なども参考にできるが実際に数多く触れることが肝心
局面5 ネット情報に慣れる ある程度、情報検索が可能になり主体的に情報を選び出す
局面6 オンラインショッピングに入る 代金決済に不安を持つ
オークションなどで安いものから購買を始める
オンラインショッピングに挑戦してみる。
局面7 オンラインショッピングを活用 必要かどうか、価格が適切かどうかを見極めて、日常生活に効果的にオンラインショッピングを取り入れる

局面1と2は、適切なアドバイスがあれば、日常生活では特に必要としない知識であると思われるので、実際には筆者が手伝って手際よく進めることにした。

局面3は、世論ではあまり指摘されないが、日本のようにキーボード操作を学校教育に取り入れていない文化にとっては大きな障害になりうる問題である。実際には、これが大きなネックになるのではないかと予測した。

局面4は、初めてインターネットの世界に入って楽しいと感じられる反面、情報の雑多性・冗長性に大きなとまどいを感じると思う。インターネットに長く親しんでいる人でもこの段階で、止まってしまう人が多い。どのようにして局面4から5へと推移するのか。社会的に意味のある情報へとリードしてくれる書籍やネット情報、あるいは経験者に出会わない限り、この段階にとどまるのではないだろうか。そしてやがてはインターネットそのものをやめてしまうかも知れない。

局面5について。局面4で「停滞」しても、常時接続していればやがては情報の主体的な取得ができるようになるものと思われる。しかしそれでも消費者がある程度、「検索の労力」をいとわなければである。ネットワークにおけるショッピングが、テレビショッピングや新聞広告と違うのは、消費者に小さいとはいえ「探す労力」を求めることである。テレビショッピングなどでは、モノを得る情報が労せずして目に飛び込んでくる。その結果、不要なものまで安さに惹かれて購入してしまうことは多くの人が経験していることである。

局面6について。オンラインショッピングは、新聞報道やテレビ等で盛んに宣伝されているものの、ネットワークの利用形態の一つにすぎない。果たしてオンライン上には、一般の消費者の耳目を集めるような、「探す労力」をかけても惜しくはない品物があるだろうか。その点がポイントだと思われる。オークションや「売れ筋ランキング」等を別にすれば、一般にインターネット上の商品購買には、集団心理というものが働きにくい。現代の経済学者が指摘するとおり、市場は純粋な需要と供給の双曲線だけではもはや決定しない。情報が氾濫する現代においては、商品の価格よりも、もっと別なファクター(例えば商品イメージ、集団心理)などが複雑に作用していると思われる。

そうした中で、消費者が直接モノを確認できないネット上のショッピングでは、どうやって個別の商品を売り込んでいくのか。また消費者側の視点から言えば、日常の消費生活を豊かにするために、どの程度インターネットを利用できるのか主体的な判断が求められていると言える。

総じて言えば、家庭の主婦が、局面1から局面5までは周囲の手助け等を借りて障害を乗り越えていくことは容易であると思われる。しかし局面6 からは、消費に対する考え方、ネット上の商品情報などによって大きく左右されるものと思われる。そこに価値を見いだすことができれば、局面6に入るであろう。反対に現状の消費生活を越える利点や魅力を見いだすことができなければ、局面5に留まるように思う。ネット上になんらかの進展がない限り、「留まること」が「家庭の幸せ」ということも十分ありうる。

さて、インターネットを利用した消費生活に利点や魅力はあるのか。協力者に実際にインターネットで消費行動を行って様々な考察を加えた後、最終章においてまとめてみたい。

5 準備(インターネット敷設とパソコンの初歩学習について)

5.1 CATV 導入

まず初めに、ようやく2000年後半に入って普及し始めた、家庭における常時接続を導入した。具体的には地元のCATV会社のインターネット(128k/bps)に契約を申し込んだ。電話で依頼して一度目は回線が最寄りの電柱まで来ているかを確認し、そのときに契約書にサインをし、二度目の訪問で宅外までの工事*1を行った使用料は月額5,500円、工事費用は31,000円と平均的な価格であった*2

価格についてはまだ高価であるように思われる。実際に協力者と近隣の主婦に聞いてみた結果、月額5,500円は家庭における情報通信費としてはかなり高いとの反応であった。以下は協力者の家庭における通信費のグラフである。

表2 家庭通信費にしめるインターネットの価格 (2000.1)
グラフ

グラフからわかるように、日常の必須メディアである新聞、テレビ、電話がほぼ3,000円前後であることがわかる。もしインターネットが家庭生活における「必須メディア」となるのであれば、新聞などと同額の月額3,000円が普及に至る一つの目安であるように思われる*3インターネットがラジオやテレビ、新聞といったものも含む総合サービスだから高額でもよいとか、インターネットは従来のメディアにはない豊かな内容を持っているので高くてもよい、あるいはサービスの価格はそのサービスの内容によって価格が決まるという考え方もありうるが、家庭の視点から言えば、どんなサービスがあるのかよくわからない初心者にとっては、内容よりもまず価格が導入を決めるポイントであるように思う。

5.2 無線LANの導入

大手のLAN 機器メーカの無線ステーションとカードを用意した。マニュアルを見ながらLAN構築経験者である筆者が行ったが、マニュアルが大変わかりにくく、かなり戸惑った。ましてやパソコン初心者であれば設定は無理である。無線LANは今後、その便利さから、企業のみならず家庭で大きく発展するだろうと予測されるが、このような仕様では、家庭への普及への大きな障害となると思われた*4

反面、設定終了後の無線LAN は快適な環境であった。今までケーブルに行動を制約されていた筆者のような者にとって、ノートパソコンと組み合わせた場合のポータビリティーには感動さえ感じた。食卓、書斎、ベッド、コタツ、ガーデンデッキ、屋根裏部屋、子供部屋とあらゆるところで使用できるのである。しかし協力者にとっては、それほど大きな感動はなかったようである。初めからそういうものだと思えば、何でもないのだろう。

価格は無線の親機とカード1枚を合わせて、約5万円である。ほとんどのパソコンにモデムが内蔵されていることを考えれば通信機器としてはかなり高価である。しかし今後、価格が低下することは、今までのネットワーク機器の例を見ても予測できるので、現段階では仕方のないことのように思われる。1万円程度にまで価格が低下することが期待される。

パソコンは従来から家庭にあったA4型のノートを使用してもらった。画面が14インチあるので十分な性能であったと思う。スティック型ポインティングディバイスは協力者にとって大変使いづらいようだったので、マウスを新たに用意した。

5.3 パソコンの初歩学習

すべての設定を筆者が手伝いながら終了し、パソコンの初歩学習に入ってもらった。ある程度基本操作を教えてから、書籍などを使用して独学してもらった。最初からすべてを理解することは無理なので、次のステップで時間を十分に確保しつつ教えることにした。

  1. 電源の入切、マウス、キーボードの操作
  2. 電子メールの使い方
  3. ワープロの使い方
  4. ウィンドウの操作
  5. ブラウザの使い方
  6. インターネットの仕組み

ここまで一通りできるようになるまで、約1ヶ月を要した。注目すべきこととしては、仕事として使うわけではないので、楽しみながらやることが大事なことを改めて認識した。業務であればトップダウンで命令され、たいていの業務は限られた時間内にこなさなければならないが、家庭ではそうした人を駆り立てる要因が働かないので、純粋に使うこと自体に楽しみを加えて行かなければならない。そこで電子メールを最初に教えて、コミュニケーションの楽しさを加えながら習得することになった。

また、平行して子供たちがインターネットを使いたがるようになったので、子供たちにも教えることにした。子供と一緒だと習得する楽しさや驚きも増すようである。

インターネットについては、表1にあるように局面5、すなわち「ある程度、情報検索が可能になり主体的に情報を選び出す」段階に至るようになって、別の問題が発生した。協力者の子供が情報検索に大変な興味を示し、いろいろなホームページを見るために、情報検索を始めたからである。そこで、子供達には、インターネットをするときは親と一緒の時のみというルールを作るようにした。これで世間で問題になっている有害情報へのアクセスをほぼコントロールすることができると思う。ブラウザの設定で有害情報へのアクセスをブロックする設定を試みたり、有害情報へのアクセスを遮断するソフトウエアの購入を考えてみたが、結局この方法で十分に事足りたようである。

5.4 インターネット上の消費行動開始

パソコンを習熟するに従って、インターネットのオンラインショッピングについては、次のような傾向が協力者に見られた。

表3 初心者主婦のインターネットオンラインショッピングにおける行動パターン

行動パターンの具体例 消費心理
段階1 バナーをクリックして、興味のある商品を調べる
オークションを眺める
オンラインモールを眺めてみる
懸賞クイズに答える
情報収集段階
受動的段階
段階2 無料カタログをネット上で注文する
オークションで1,000円以下のものを購入する
欲しい商品名で検索する
少し積極的段階
段階3 オークションで1,000円を超えるものを購入する
ネット上で同一商品の比較検討のみならず、オークションなど短時間で他店舗比較を行う
ネット上の商品を、さらに実際に商店で手にとって確認したりする
運送料も計算に入れて、オンラインとオフラインでどちらが有利か判断できる
積極的な段階
段階4 実際の生活にとって、本当に必要なものかどうか考えるようになる 成熟段階

段階1について

段階1は、まだ商品の主体的な検索を行っていない「情報収集の段階」である。現実の消費行動で言えば、ウィンドウショッピングの段階にあたる。この段階は予想していたよりも長く、2週間ほど続いた。何らかの購買誘因がなければ、オンラインの購買にはつながっていかないようだった。その理由はアンケートに答えて貰った結果、以下のようにまとめられた。

  1. オンライン上に欲しいモノがない。裏返せば、オンラインにあるものは、実際のお店でも購入できるものがほとんどである。せっかくワールドワイドと聞いていたのに、そんなに購買意欲をそそられるようなモノは予想とは反対に少なかった。
  2. オンライン上でも安くはない。実際の商店では、人件費、場所代、在庫などいろいろな費用がかかっていると思う。一方、そうした経費がかからないオンラインというバーチャル店舗では安いと思っていた。しかし実際には安くはなかった。
    この背景には、協力者は、インターネット接続料やその他の設備にまとまったお金を初期投資につぎ込んでいるので、オンライン上の商品は安くあるべきだ、という考えが無意識に働いているものと思われた。

段階2について

段階2は、積極的な消費行動に出ている「チャレンジの段階」である。しかし決済の方法に不安があるため、経済的・心理的な負担にならない金額で行動している。この金額や労力であれば、たとえ、取引に失敗してもそれほど大きなダメージには至らない。段階1と段階2の行動の差は、小さく見えるが、実は心理面で大きな開きがあると考えられる。段階1までは、インターネットユーザならば誰でも到達する段階であるが、段階2は「自ら消費行動をしよう、消費行動を通じて生活を豊かにしよう」という明確な意識が個人のなかに生まれなければ到達しない段階である。行動面では小さな進展であるが、心理面では大きな一歩を踏み出していると言える。今回は、実証実験ということもあり、最後には「オンラインショッピングにトライしてみる」という目標を立てて貰った。このことが段階1から段階2へと心理面で積極的な行動へと離陸させる誘因となったため、比較的早く段階2に入ったが、そうした誘因が生まれにくい一般家庭の場合、段階2へと進むことは難しいと考えられる。

この段階で、協力者が実際に購入した物を挙げてみよう。まずファッション関係のカタログを取り寄せた。全国展開している若者向けの専門店であるがまだ出店前だったため、カタログによって通信販売してみることを考えたようである。しかしまもなくこの店も身近に出店したために、通信販売ではなく店舗で購入することになった。

次にオークションに移った。新聞の社会面でオークションの盛況について報じていたことがきっかけになったようだ。いろいろと種類がある中で、ヤフーオークションに登録した。数週間ほど時計を探したが、実際に購入には至らなかった。気に入った商品が無かったためである。それから子供のためにクリスマスプレゼントとして人形を1,000円以下で購入した。他にはソフトウエアを市価の5分の1で購入した。インターネットショッピングではやはり、コンピュータ関係の品物が安く手に入るようである。しかしその反対に、一般の商品は、中古品でも新品でもそれほど安くはないと感じたようである。また安いものがあっても、人気商品には最後には相応の値段がつくために、大きな満足感は得られない様子だった。パソコンの無線カードを例に述べてみる。もう一台のノートパソコン用に無線カードがあったら便利だということで、オークションに何度か入札を試みた。最初は2,000円前後で出てくる中古品(あるいは新古品)も、オークション締切間際には1万2,000円前後に落ちつくことになる。これに送料を入れるとほぼ街の電気店で購入する価格と同じになるのであった。他にもコンサートチケットなどで同様の経験をした様子である。

段階3について

1ヶ月ほどオークションに夢中になった後、しばらく遠ざかるようになった。オークションに参加することはかなりエネルギーと時間を使うからだと思われる。またオークションに出品される数百万点の品々を見てそれに費やす労力と時間を考えると決して安くはないと判断し、今度は新製品の検索をするようになった。この時点で、3つの商品相場を把握できるようになった。楽天などに代表されるオンライン商店街の新品価格、オークションの中古品の価格、実際の店舗価格である。これらを相互に参照することによって、商品の適切な価格について知ることができるようになったようだ。これはインターネットがなければ実現できなかったことである。地方都市の場合、商品の選択枝は非常に限定されている。通信販売やカタログ販売の隆盛、それと物流の発達によって、ここ10年から20年ほどの間に、かなり消費者にとって選択枝が増えてきた。しかし未だに消費者に決定権がないのが「価格」である。大規模店の競争によって価格破壊が起きていると言われているが、地方都市や田舎の場合、商品につけられた価格に納得出来ない場合、消費者に出来ることと言えば、我慢して買わないことであった。またその価格が適正価格なのかどうかさえ、知る術もなかった。しかしインターネットを利用することにより、一つの商品がもつ様々な価格を、簡単に知ることができ、買うに値する価格かどうか判断することが可能となった。別な言い方をすれば、これは「消費者が適正価格」を決めることに他ならない。これはインターネットという双方向通信を使うことによって初めて可能となったのであり、きわめて注目すべきことのように思われる。

段階4について

ここまでの段階で、熱心にインターネットを使ってショッピングを行ったようである。実際に取引数にして9回、金額にして5万円弱であった。回数も金額も少ないように思われるが、全くインターネットやパソコンに触れたことがない主婦が、ゼロから初めて2ヶ月でここまで到達したのは、早い展開だと思われる。

さて、興味深いことは、オンラインショッピングをしながらも、協力者の消費心理に変化が出てきたことである。前の段階では、できるだけ良いものを安く購入しようとかなり奮闘した。ネット上の検索に時間をかけて、膨大な商品を見て、スペックの検討を詳細に行い、さらに他店との価格比較までした。そうしているうちに「果たして自分は、この商品を本当に欲しいのだろうか」「この商品を購入してどの程度、普段の生活の役に立つのだろうか」という問いが生まれたことである。これだけモノが豊かな時代に、オンラインでしか買えない物があるのだろうか、たとえあったとしてもそれを手に入れることで、日常の生活が本当に豊かになるのだろうか。協力者は、新しい消費生活観を手に入れたようである。これはオンラインショッピングが不要であると言っているのではない。今まで地方都市という狭い消費空間にいたため、「あれがあったらなあ」というモノへの渇望があったのだが、インターネット上に存在する何万点の商品を見ているうちに、「いつでも買える」「こんなに沢山のモノを所有して何になるんだろう」という心理的飽和状態になったと思われる。

そして次に「購入」したのは、温泉の宿泊予約だった。形のあるモノではなく、サービスを購入した。

6 消費行動を通して感じたこと(主婦の立場からの感想)

私は今まで、パソコンに触ったことがなかった。今までの情報入手と言えば、新聞、雑誌、タウン誌などの印刷物やテレビ、ラジオなどのコマーシャルなどが主であった。しかしインターネットを利用するようになり、ここ2ヶ月間でメールやオンラインショッピング、情報検索などいろいろな楽しみ方を知った。

まず第一にパソコンに触っている自分に「やればできる」という充実した気持ちを味わうことができた。世間で「IT革命」などと言われているが、家庭の主婦である自分には無関係のように感じていた。

第二に、家に居ながらにして欲しい情報が手に入るのは、とてもうれしいことである。今までは経済的に地方の商業都市というどちらかというと狭い世界の中にいたのだが、リビングに居ながらにして、外の情報と直接つながっているおもしろさ、世界の広がりのようなものを感じた。ブラウザで商品の比較をしたり、オークションで見えない相手と値段のかけひきをしたり、これがよく言われているオンラインショッピングかと納得した。

友人達とランチのおいしいお店を探したり、温泉宿のページもよく見る。冬である今は、スキー場のページでリフト券の値段も事前にチェックする。また雪道の路面状況なども確認できるので、商品以外のためになる情報を一挙に取得できる。こうしていろいろな情報が手に入るということは、家庭生活も充実して活発になると思う。デザインのよいホームページを見ていると、ランチも温泉もスキー場も、今度はここに行きたいと感じさせるものがある。

現実の買い物にはない特徴としては、商品に対する個人の意見が反映されていることが挙げられる。例えば、本を購入する場合には、すでに読んだ人のブックレビューを読んで、購入するときの目安にすることができる。また、オークションの場合には、その商品を使っていた人の個性や思い入れを感じることができる。するとその商品の持つ特徴をさらによく理解することができる。今までは、販売する人のセールストークがすべてであった。こうしたことは、実際の買い物にはない特徴と言える。

個人間の売買においては、特に買う方の立場からすると、品物選びと購入決定までは非常にスムーズであるが、代金の支払いがほとんど郵便振替か銀行振り込みだったために、購入の一連の流れの中で、決済だけが非常に時間をとられる印象を持った。何らかの簡単な決済方法が、取られるといいと感じた。

今回のオンラインショッピングでは、小学生の子供と一緒に画面を見ていることが多かった。子供と一緒に短時間のうちにいろいろな商品と価格を見ることによって、その商品の持つ適正な価値を知ることができたように思う。子供は実際にデパートや商店に行っても、限られた商品(例えば、文房具やスポーツ用品、おもちゃと言ったもの)しか見ることがない。しかし一緒に、様々な商品とその価格について、いろいろ相談しながら見ていると、その商品が必要なのか必要でないのか、高いか安いかなど自然に価値判断を子供達が身につけて行くようであった。例えば、子供が欲しがっていたテレビゲームのソフトを検索していると、「欲しいんだけど、もっとよく探せば安く買えるんじゃないの、お母さん」と逆にアドバイスを受ける程に、価値判断できるようになった。これは予想していなかった展開である。いろいろな商品が一度に眺められるので、あれも欲しい、これも欲しいと言うのではないかと心配していたからだ。

もう一つ、子供との商品検索を通して感じたことは、子供が多様な商品見て自分の生活を豊かにすることを考え始めたことである。例えば、自転車を調べていくうちに、マウンテンバイクやレーサー型自転車の存在を知り、「あんなのに乗ってみたいな」と夢を持つようになった。これは、印刷物のカタログ本を眺めているのと同じなのかも知れないが、違う点は短時間にあらゆる種類のメーカー、デザイン、実際の販売価格、使用者の感想などを知ることができることにある。

中学生の子供は、J-POPの人気グループのコンサートチケットをオークションで入手しようとして結局あきらめた。初めは販売価格より安く提供されていたので、自分の小遣いの範囲と判断し入札したが、だんだんと値段があがっていくに従って、ついに通常販売価格を超えたときに、購入を自らあきらめた。最終的には通常価格の倍まで価格が跳ね上がっていったようである。子供でもちゃんと自分の経済観念に基づいて行動できることを示しているように思われる。

こうしたことから考えると、小学校低学年では、生活科で実際に商店に出向いて、「値段調べ学習」等が行われているが、小学校や中学校でインターネットを使っての商品調べをしても面白いのではないかと感じた。また小中学生でも、金銭感覚というものをある程度身につけていることを再確認することができた。ただし親が日頃から実際の買い物を通じてきちんと子供に金銭感覚を身につけさせていることが非常に大事であると思った。現実の買い物がしっかり出来ていれば、オンライン上でもしっかりとした買い物をするこができるし、現実の買い物に無駄が多ければ、インターネット上でも無駄が多いように思う。それは、大人だけでなく子供も同じであるのではないかと思った。従って子供の場合には特に現実の買い物を親がきちんと指導することが肝心である。現実の買い物がまともにできないのに、オンライン上だけは上手に買い物ができるということは、非常に考えにくいと思った。

さらに、自分が経験したインターネットでの買い物の仕方やコツを、親としてきちんと伝えていきたいと思った。インターネットでの買い物の長所と欠点を、親の知っている範囲でちゃんと伝えることは、これから高度情報化社会を生きる子供たちには、欠くことの出来ない生活の智恵になると思う。

最後に、パソコンとインターネットの設定についてであるが、これは非常に難しかった。今回は、ベテランにやってもらって大変感謝している。もし身近に経験者がいなければ、家庭の主婦には、無理だと感じた。これほどパソコンやインターネットが普及して毎日のようにテレビや新聞で、インターネットについて取り上げられているのに、実際やってみて、これほど難しいとは思わなかった。パソコンを購入してきてボタンを一つ押せば、最適なプロバイダに接続し入会して、すぐにブラウザと電子メールが使えるようにはならないものか。書籍を見ても、初心者の私にはまったく見当がつかない用語が沢山あって、何冊か購入したが読み通すことはできなかった。何らかの手だて・改善が望まれる。

7 まとめ

それでは最初に設定した3つの問題に立ち戻って、まとめてみたいと思う。

I インターネット上の買い物は家庭の主婦にとって魅力的か。魅力があるとすればそれはどんな点か。また魅力的でないとすれば、それはなぜなのか

結論から言えば、家庭の主婦にとってインターネットを利用した買い物は魅力的であると言えると思う。時間・空間上の制約を越えて短時間のうちに様々な商品を自宅にいながら検索できることは、とても魅力的であったようだ。当面は品物の購入よりも、宿泊予約・商品情報などの情報検索の面が利用価値が高いと言える。

これまで見てきたように消費意欲のすべてが実際の購入には、結びつかなかった。購入を妨げている理由をまとめてみると以下のようになる。

これらの阻害要因のうち、解決の見通しがあるものもある。例えば、コンビニエンスストアの物流を生かして、送料を安くする工夫が生まれていると聞いている。また代金の決済についても、いろいろな方法が現在、考案されており中にはすでに実際に用いられているものあると聞いている。筆者もシェアウエアソフトの購入には、クレジットカードの決済を用いているが、非常に便利である。暗号化技術が進めばやがてはオンライン上の決済ができるのではないだろうか。そうすると市民生活も大変便利になっていくと思う。

反対に、技術の進歩とは別の次元の問題もある。それは今まで見てきたように、モノを所有すること自体への反省、問いかけである。大量生産・大量消費ではなく、本当に必要なものだけを所有するという消費行動の質的な変化へのきざしが見られた。我々の時代は、インターネットを利用することによって、ある程度成熟した消費社会に向かっているのではないかと思う。

II 時間と労力をかけても、インターネットの買い物をする価値があるのかどうか、また何が一番の障害になっているのか

これまでの検証を通して言えることは、インターネットの買い物をするまでに、家庭の主婦が越えなければならない障害はあまりにも大きかった。何らかの手助けを得なければ、たぶん買い物というレベルまでは到達しえなかったと思う。特にパソコンとインターネットの設定が非常に専門的でまだまだ家庭でごく普通に使うというレベルには至っていないと言える。家庭でのインターネット常時接続時代を迎えて、もっと簡単な操作で設定をすることができるようにならなければならないと思う。また気軽に参加できる講習会が身近にあったり、無料で相談を持ちかけることのできるヘルプデスクのようなものの開設が待ち望まれる。こうしたものは、行政でも市民団体のボランティアによるものでよい。そうしないといわゆる情報弱者は、いつまでも情報弱者のまま必要な情報にアクセスできないという情報格差(デジタルデバイド)がますます広がっていくであろう。

市民生活にとって、現段階のオンラインショッピングは、パソコン購入代金とインターネット接続費を払っても、ペイするような状況にはないと感じた。パソコンやインターネットは他にも用途があるので、たまたまオンラインショッピングに結びついたが、オンライン経済は、もう少し状況を見極める必要がある。現在はネットバブルではないのだろうか*5もう少しすれば、等身大のインターネット経済が見えてくるような気がしている。

III インターネット時代の消費者としての親は、次世代の子供に消費についてどのように伝えていこうとするのか

確かにインターネットはバーチャルな世界であるので、実際の店舗販売とは異なる部分が存在する。販売する人の顔が見えない、クレーム処理が決まっていない、決済が多様である、などである。しかし今まで見てきたように、バーチャルな世界は現実世界を模倣して作ったものであるから、親が子供に伝えることはインターネットの特殊性よりも、現実の金銭感覚と経済観念であるように思う。品物を買ったらお金を支払う、支払いの約束は守る、あまりに安いモノには何か裏がある、人気商品は割引が少ない、などなど。まさに現実世界の消費生活で大事なことがインターネットでのショッピングについても当てはまる。実際に、協力者の家庭でも「これはちょっと安すぎるから、何かあるね」等と親子で会話されていたそうである。

大事なことは、親が普段の消費行動を通して親としての模範を示すこと、子供には世の中の経済をわかりやすく根気強く教えていくことであると思う。そうした知識がインターネットのショッピングにも十分に通用することはもっと認識されてよい。近頃は、ネットショッピングの特殊性や危険性、過大な評価が大きくクローズアップされるあまり、大事な部分が隠れてしまっているように思われる。

8 終わりに

本稿は、2000年12月から2001年1月にかけて約2ヶ月間に渡って行われた、主婦のインターネット上における消費行動についての実証実験と考察である。インターネットの世界は、ご承知のようにドッグイヤーと呼ばれ、技術革新のみならず様々な制度変革が、日々めまぐるしい早さで行われている。通信インフラひとつ見てもISDNがいよいよフレッツISDNになって常時接続時代への突入かと思われているところへ、フレッツADSLやFTTH(Fiber to the home 家庭への光ケーブル敷設)へとめまぐるしく展開している。そうした急激な変化の中で、通信インフラやパソコン、オンラインショッピングについて考察を行うことは、ネットワーク専門家ではない筆者にとって非常に難しいものであった。

しかし、今まで専門家の分析やパソコン雑誌では、主に企業や学校、大学といった大きな社会集団についての導入例や実践事例などの紹介があっても、個人の家庭で何が起きているかということについては、あまり取り上げられなかったように思う。そこで今回は、情報化社会の主役になるべき個人の生活がインターネットを導入することによってどのように変化していくのか、とにかく現時点で詳細にレポートして置く必要があると常々感じていた。幸いに、協力者を得て実験を行って、できるだけ客観的な考察を加えたつもりであるが、経験不足から的はずれな指摘をしていることがあるかも知れない。それはすべて筆者の力量不足であるので、ご容赦願いたいと思っている。


  1. 工事について。CATV の場合電柱から戸建て住宅の外側に保安器を設置するために工事が必要であり、家のどの部分にケーブルモデムを設置するかで、迷った末に家庭内無線LANを初めから計画していたので、2階の主寝室に設置することになった。CATV の営業担当によれば、あまり家のどこに同軸線を持ってくるかで悩む人はいないそうであるが、1戸建て住宅の場合、家に穴をあけることは美観上も住宅性能上も大きな問題である。最近の高気密住宅の場合、薄いポリエチレン膜でできた気密シートが壁体内に入っており、これを不用意に貫通させることは、気密性能が低下するばかりでなく、最悪の場合、壁内結露を起こす可能性が出てくるからだ。こうした住設備に関して、通信業者は細かな配慮するべきである。結局、「ラストワンマイル」を制覇するインフラは、案外、スピードや価格ではなくて、こうしたことまで配慮できる規格になるのではないだろうか。 →(本文に戻る)
  2. この価格には、ケーブルモデムの賃貸料も含まれている。 →(本文に戻る)
  3. 米国でのDSL やCATV による常時接続の価格も3,000円前後と聞いている。 →(本文に戻る)
  4. M社の無線LAN専用のユーザー掲示板には、マニュアルのわかりにくさ、設定の仕方の大変さの書き込みが数件あった。筆者もメールで、メーカ開発者に家庭での使用に関する改善点を指摘した。その後、製品マニュアルはかなり改善されていた。 →(本文に戻る)
  5. ネット関連株式市況は次の通り。楽天は、最高値2000年5月(6450万円)、2001年1月現在(126万円)である。ヤフージャパンは、最高値2000年2月(1億6,790万円)、2001年1月現在(852万円)である。 →(本文に戻る)

2001年2月20日
安倍冨士男・安倍恭子